海の底 (9+/10)

海の底

海の底

 一冊目ということで長々と書きますが、とりあえず非常にお薦めなので読んだことない人は前作の「空の中」と一緒に読んでください。
 読後感はあまりすっきりしたものではありませんでした。前作「空の中」で残った清涼感は微塵もなく、昏く鬱屈とした感情がまだ頭から離れませんね。「海の底」とはよくつけたもんだと思いました。いや、それを意図してつけたんじゃないとは思いますが。かといって、この作品、悪いわけじゃないのです。むしろ相変わらず良い話書くなぁと感嘆しました。しかしながら、前作があまりにもできが良かったので、今作は微妙な評価になる気がしないでもないです。
 なんで、こんなに陰鬱な気分になるのか考えたんですが、今回はいろいろとえげつないんですね。途中で起こる問題が生々しいというか。人も良く死ぬし。警察と自衛隊の軋轢とか涙が出そうになりますね。あと報道の関連とか。いやぁ、社会は大変だ。それに、今回は話の中心人物が化け物と戦うということをしてないんですね。メインの話は救出を待つ潜水艦の中での学園物に見えたぞ。ウェイトとしては警察の方も大きかったんだけども、そちらはどっちかというと化け物をどう倒すかではなく、いかに自衛隊が出てこられるようにするかということで、敵が化け物じゃなかったから、裏の話って感じがしたし。そのあたりがまた気分が沈む点だとも思う。解決策というか、目標が勝利どころか犠牲を当然の負け戦みたいなもんですからな。潜水艦の中も明確な答えが出る話しではなし。
 ところで、この作品の主人公は圭介と言うことで良いのだろうか。どこをどう読んでも主人公が圭介であるようにしか見えない。その後はもっと母親に反抗してくれるかとも思ったけど、逆にあれくらいの方が現実味があって良い。自分はもう20代も半ばに入りかけて中学生高校生の頃なんか忘れかけている人間ですが、今現役の人たちが読んだらどう思うのかは非常に興味深いところです。
 話は変わりますが、潜水艦内に閉じこめられた子供たちで女の子だったのは望だけでしたね。自分は広告を見たときから半々くらいだと思っていたので正直意外でした。こんなふうに考えてしまうのはライトノベル的キャラクター小説に毒されすぎでしょうか。いや、多分そうなんですがね。